千日回峰行が他のあらゆる修行と一線を画すのは、比叡山延暦寺に伝わる厳格な「掟」の存在にあります。行者は身に白装束をまとい、頭には未開の蓮華をかたどった笠をかぶり、腰には「死出紐(しでのひも)」と「降魔の短刀」を携行します。
これは、万が一病気や怪我、あるいは激しい体調不良などで行を続けられなくなった場合、その場で首を吊るか腹を切り、自ら命を絶たなければならないという「自害の掟」を意味しています。三途の川の渡し賃とされる「六文銭」を常に懐に忍ばせているのも、この行が生と死の境界線上で行われるものである証です。
そのため、突発的な腹痛や下痢といった生理現象であっても、行の継続を阻む致命的な要因になり得ます。阿闍梨たちは自身の体調変化の兆候をミリ単位で見極め、歩行ペースや呼吸法、わずかな食事の加減によって完璧に体調を自己統制する精神力と身体技法を磨き上げます。