世間からは「仲良し料理家親子」として知られていた小林カツ代とケンタロウですが、その背景には親子ならではの深い葛藤と、それを超えた固い絆が存在していました。
カツ代は母としてケンタロウと娘(イラストレーターとして活動)を愛情深く育てる一方、仕事に対しては極めて妥協を許さないプロフェッショナルでした。ケンタロウが料理の道へ進む際も、母の七光りと言われることを嫌い、自らの力でスタイルを確立するよう厳しく接したと伝えられています。
しかし、母が遺した家庭料理の哲学は、確実にケンタロウの身体と心に染み渡っていました。カツ代が「食材を無駄にせず、短時間でおいしく作る」ことを追求したのに対し、ケンタロウは「調味料をきっちり量りすぎず、五感で楽しんでガツガツ食べる」という自身の表現へと昇華させていきました。
2005年8月、カツ代はくも膜下出血で突然倒れ、約8年半に及ぶ長い療養生活に入ります。母が病床にある中、ケンタロウは母の味と料理への誇りを胸にテレビカメラの前に立ち続けました。そして2014年1月23日、カツ代は多臓器不全のため76歳でこの世を去ります。事故後の療養中だったケンタロウも、心の中で母との深い対話を交わし、その魂を受け継ぎました。