どれほど精巧な包囲網を築こうとも、逃亡劇が長期化する最大の要因は「国家の壁」にある。自国民の国外引き渡しを認めない憲法規定や、他国との間に引渡条約が存在しない現実が、逃亡者にとっての要塞と化すからだ。
その典型的な事例が、日産自動車の元会長カルロス・ゴーンの逃走劇だ。音響機器の大型ケースに身を隠し、プライベートジェットで日本を脱出した彼は、自らの国籍国であり身柄引渡条約を結んでいないレバノンへとまんまと逃げ込んだ。レバノン当局が日本の引き渡し要請に応じない限り、彼はその国内で安全に暮らすことができる。法秩序の隙間を計算し尽くした鮮烈な逃走劇であった。
同様に、米国家安全保障局(NSA)による無差別検閲の全貌を暴露したエドワード・スノーデンのケースも、国家間の対立が逃亡者を保護する象徴と言える。アメリカ政府から間髪入れずに指名手配された彼は、モスクワの空港ラウンジで足止めされた後、最終的にロシアの永住権と市民権を獲得した。超大国アメリカの司法の手が及ばないロシアという政治的聖域に身を置くことで、彼は現在も拘束を免れ続けている。