朝ドラファンの間で長年議論されてきた疑問の一つに、「星野武蔵には実在のモデルが存在するのか」という点があります。
結論から言えば、星野武蔵は完全なドラマオリジナルキャラクターです。ヒロイン・小橋常子のモチーフとなった大橋鎭子(おおはし・しずこ)さんの自伝や記録を検証すると、彼女は生涯独身を貫いており、青春時代に星野のような植物研究者と深く交際したという明確な記録は残されていません。
大橋鎭子さんが雑誌『暮しの手帖』に人生のすべてを捧げた事実は歴史通りですが、ドラマ化にあたって脚本家の西田征史氏は「ひとりの女性が仕事に生きる覚悟を決めるための強力な対比軸」として星野武蔵を造形しました。もし星野との温かな家庭生活という明確な選択肢が存在しなければ、常子が雑誌編集長として生涯を捧げる決意の重みがドラマとして成立しなかったからです。
実在の人物ではないからこそ、星野武蔵というキャラクターには「昭和という激動の時代に、女性の社会進出と自己実現を真に理解し、身を引くことができた理想の男性像」という極めて先進的なメッセージが込められていたのです。