スタジオジブリの長編アニメーションといえば、『千と千尋の神隠し』や『もののけ姫』のような壮大なスペクタクルを思い浮かべる方が多いはずです。しかし、1993年5月5日に日本テレビ開局40周年記念番組として放映された映画『海がきこえる』は、魔法も飛行艇も登場しない極めて等身大の青春ドラマでした。
公開から長い年月を経た現在、国内外のカルチャーシーンでは本作への熱視線が注がれています。その火付け役となったのが、欧米やアジア圏を含む世界的な「90年代ジャパニーズ・シティポップ/レトロアニメ」のブームと、デジタルリマスター版による映画館でのリバイバル上映です。東京・渋谷のBunkamuraル・シネマをはじめとする劇場上映では連日満席が相次ぎ、チケット争奪戦がSNSで大きな話題を呼びました。
スマートフォンやSNSが存在しなかった時代の「もどかしい距離感」や「すれ違うコミュニケーション」が、デジタルネイティブ世代にとって新鮮なエモーショナル体験として受容されています。フィルム特有の柔らかな光と高知の穏やかな街並み、そして近藤勝也氏の繊細なキャラクターデザインが織りなす映像美は、タイムレスな魅力を放ち続けています。