本作最大の衝撃は、ラストで明かされる「登場人物たちの実年齢」にあります。読者は成瀬の軽快なフットワーク、若者らしい語り口、奔放な性描写から、彼を「20代〜30代の活力ある青年」だと無意識に思い込まされて読み進めます。しかし、終盤で突きつけられる真実はまったく異なるものでした。
なんと、主人公の成瀬将虎は77歳の老人だったのです。
それだけではありません。成瀬が恋心を抱き、必死に守ろうとしていたヒロインの麻宮さくらも70代の高齢女性であり、彼らが通っていたフィットネスクラブや交流の場はすべて「シニア向けコミュニティ」でした。探偵が若き美女たちと危険な事件に首を突っ込むハードボイルド劇に見せかけて、その実態は「人生の黄昏時を迎えた老人たちが、詐欺グループ相手に知恵と情熱を振り絞って立ち向かう痛快なシルバー活劇」だったのです。
文章だけで世界を構築する小説だからこそ成立する、視覚的思い込みを逆手に取った圧巻の叙述トリック。読者の脳内に出来上がっていたスタイリッシュな映像が、結末の一撃でガラガラと音を立てて再構築されるカタルシスは、ミステリー史上に残る名場面といえます。