葛西氏が生涯をかけて情熱を傾けた最大の国家プロジェクトが、リニア中央新幹線構想です。総工費約9兆円とも試算される巨大事業において、葛西氏は途方もない決断を下しました。「国の財政投融資や補助金に過度に依存せず、全額を自社負担で建設する」という前代未聞の方針を打ち出したのです。
国費を投入されれば、政治家によるルート変更の介入や不要な駅増設などの天下り型圧力を受けることになる。それを嫌った葛西氏は、東海道新幹線の運行で稼ぎ出す巨額のキャッシュフローを原資に、自前の意思決定で超電導リニアを敷設しようとしました。この驚異的な経営判断は、民間企業としての究極のプライドとも評されます。
しかし、葛西氏の強烈なトップダウン姿勢は、静岡工区をめぐる大井川の水資源問題など、地域住民や自治体との深刻な摩擦を生む一因ともなりました。静岡県の川勝平太前知事との間で長期にわたる膠着状態が続いたことは記憶に新しい事実です。葛西氏自身はリニアの開通を目にすることなく世を去りましたが、彼の遺志を受け継いだ現経営陣による懸命な対話と技術検証が、現在の建設現場を支え続けています。