矢部太郎さんの卓越した観察眼と柔らかなタッチで描かれた作品は、2017年の単行本発売直後から口コミで爆発的な広がりを見せました。そして2018年、漫画界で最も権威ある賞の一つである第22回手塚治虫文化賞「短編賞」を受賞します。本職の漫画家以外による同賞の受賞は史上初の快挙であり、文壇やメディアでも大きなニュースとなりました。
受賞の知らせを聞いた大家さんは「私なんかが漫画になっていいのかしら」と恥ずかしがりながらも、矢部さんの晴れ舞台を誰よりも喜んだといいます。授賞式の壇上で矢部さんが語った大家さんへの感謝の言葉は、多くの列席者の胸を打ちました。
しかし、喜びの絶頂の先に待っていたのは避けられない別れでした。賞の発表からわずか数カ月後の2018年8月、大家さんは体調を崩し、91歳で静かに息を引き取られます。大切な人を失った喪失感と、出会えたことへの尽きない感謝を綴った続編『大家さんと僕 これから』には、最期の瞬間まで互いを思いやった2人の心の交流が克明に記されています。