『め組のひと』が単なる歌謡曲の枠を超えて日本中を席巻した背景には、80年代初頭の広告業界における一大決戦「夏の化粧品キャンペーン戦争」が存在します。
本作は、1983年の資生堂サマーキャンペーン CMソングとしてタイアップ制作されました。当時、資生堂とカネボウは毎年夏になると莫大な広告費を投じ、最新のアイシャドウやサマーファンデーションをプロモーションするために競い合っていました。その熾烈なマーケティングの中で白羽の矢が立ったのが、時代の最先端を走るクリエイター陣でした。
作詞を手掛けたのは、卓越したポップセンスで知られる麻生香太郎。作曲は、元ジャッキー吉川とブルー・コメッツのメンバーであり、『機動戦士ガンダム』の劇場版主題歌なども手掛けた天才メロディメーカー井上大輔が担当しました。さらに編曲には井上大輔に加えてラッツ&スター自身も参画し、生ブラスの躍動感と黒人音楽由来のタイトなリズムセクションを構築しました。
ここで注目すべきは、『め組のひと』の歌詞の意味です。タイトルの「め」は、江戸時代の町火消し(消防組織)の花形であった「め組」の男たちのいなせで粋な佇まいをベースにしつつ、キャンペーンの主力商品である女性の「目(EYE)」を鮮やかにオーバーラップさせています。「いなせだね 夏を連れてきた女(ひと)」「めッ!」というフレーズは、火消しの勇ましさと、視線ひとつで男の心を奪う蠱惑的な女性像を完璧に融合させた、商業コピーライティングの最高峰と呼べる言葉遊びでした。