カネキの代名詞とも言える「この世のすべての不利益は当人の能力不足」というフレーズは、作中においてヤモリの受け売りとして登場します。しかし、カネキがこの言葉を自らの信条として内面化した背景には、極限の精神崩壊と心理的防衛機制が働いていました。
幼少期のカネキは、過労で命を落とした母親の「誰も傷つけない優しい人になりなさい」という遺言を信条として生きてきました。しかし、その「優しさ」の実態は、親戚からの理不尽な要求を断りきれず自らをすり減らした母親の弱さであり、結果として最愛の息子を一人遺して死んでいくという「究極の自己犠牲」だったと気付かされます。
心理学でいう「認知的再評価」と「同一化」のプロセスがここにあります。カネキは拷問者の言葉を取り込むことで、無力な被害者という立場を捨て、自らを理不尽に立ち向かう加害者側の論理へと適応させました。「自分が強ければ母も死なず、あんていくの仲間も守れた」という強迫観念が、彼を悲劇的な戦いへと駆り立てていくことになります。