旅行計画を立てる際、最も多くの人が見落としがちなのが「季節による可視率の極端な落差」です。気象庁の過去データや富士山周辺自治体の観測記録を分析すると、富士山が麓や遠方から綺麗に見える日数には、季節ごとに驚くべき開きがあります。
年間で最も富士山が見えやすい時期は、12月から2月にかけての真冬です。この時期、太平洋側はシベリア高気圧から吹き出す冷たく乾燥した北西の季節風に覆われます。気温が極めて低いため空気中に含まれる水蒸気量(絶対湿度)が限界まで低下し、光を散乱させるチリや微粒子も雨や雪によって洗い流されるため、視程(遠くまで見通せる距離)が劇的に伸びるからです。この時期、山梨県側の河口湖や静岡県側の富士宮市などでは、日中に富士山を視認できる確率が75〜85%前後に達します。
対照的なのが、観光のハイシーズンと重なる7月から8月の真夏です。太平洋高気圧に覆われて朝から強い日差しが照りつけるものの、南西からの湿った暖気が大量に流れ込みます。気温の上昇に伴って地表の水蒸気が急激に蒸発し、大気中にモヤ(ヘイズ)がかかるだけでなく、山肌に沿って強烈な上昇気流が発生します。その結果、山頂付近に急速に積雲が発達し、午前9時を過ぎる頃には山体全体がすっぽりと雲の中に隠れてしまうケースが頻発します。盛夏期の富士山可視率はわずか20〜30%程度にまで落ち込み、「麓にいるのに山がどこにあるのかすら分からない」という事態が日常茶飯事となります。