本作のクライマックスにおける白眉は、キョンが繰り広げる自己対話のシーンです。目の前には、誰も傷つかず、ハルヒの気まぐれに怯えることもない、平和で穏やかな世界があります。赤面しながら文芸部の入部届を差し出す長門の姿は、キョンにとっても十分に魅力的で甘美な誘惑でした。
しかし、キョンは内なる自問自答の末に、冷酷なまでの本音を吐き出します。
「面白いと思っていやがったんだ。あの滅茶苦茶な日常を!」
キョンは自分がこれまで「やれやれ」と愚痴をこぼしながらも、ハルヒが巻き起こす常識外れの騒動を誰よりも心から愛し、求めていた事実を認めます。平穏だがハルヒのいない世界よりも、理不尽で退屈しない「SOS団のある世界」を選ぶ——この強烈な自己肯定とエゴイズムこそが、キョンという主人公の真骨頂です。
部室のパソコンに表示された「YUKI.N>」の問いかけに対し、キョンは自らの手でプログラムを実行し、元の世界への帰還を選択しました。この決断は、受動的に巻き込まれていただけの少年が、初めて自分の意志で運命を選び取った瞬間でした。