広大な大海原や峻険な山岳地帯に航空機が墜落した場合、目視による捜索は極めて困難を極めます。特に海底深くに沈んだ場合、電波は海中をほとんど伝播しないため、通常のレーダーやGPSによる捕捉は不可能です。そこで威力を発揮するのが、各レコーダーの前面にボルト留めされている水中ロケータービーコン(ULB:Underwater Locator Beacon)です。
円筒形のビーコンは「ウォーター・スイッチ」と呼ばれるセンサーを内蔵しており、海水や淡水に浸水すると回路が自動的に通電。人間の耳には聞こえない37.5キロヘルツの超音波パルス(ピンガー音)を、毎秒1回のペースで水中に発射し始めます。この音波は、ソナーを搭載した捜索船や深海探査機、曳航型音響探知機によって数キロメートル離れた場所からでも捕捉可能です。
このビーコン技術にも過酷な事故の教訓が反映されています。2009年に大西洋上で墜落したエールフランス447便の捜索では、水深約3,900メートルの山岳状海底に沈んだブラックボックスの発見までに約2年もの歳月を要しました。当時のビーコンのバッテリー寿命が「最低30日間」であったため、超音波が途絶えた後の捜索が難航したのです。この痛烈な経験から国際航空機関は規格を改訂し、現在のビーコンは最低90日間の連続発信が可能な高容量リチウム電池を搭載しています。
水深数千メートルの深海で位置が特定された後は、無人深海探査機(ROV)のロボットアームを用いて慎重に回収作業が行われます。回収後の取り扱いにも特殊なプロトコルが存在します。海水から引き揚げられたブラックボックスは、現場で絶対に乾燥させてはなりません。空気に触れると金属塩が急速に結晶化して内部腐食を進行させるため、現場の海水を満たした専用の保冷コンテナに浸したまま、各国の航空事故調査委員会(日本の運輸安全委員会【JTSB】や米国家運輸安全委員会【NTSB】、仏航空事故調査局【BEA】など)の専門研究所へと厳重に空輸されます。