作中の舞台となった岐阜県飛騨地方の山あいに位置する「糸守町」という自治体は、現実の日本地図上には実在しません。新海作品が持つ独特のリアリティは、日本各地のリアルなロケーションからパーツを抽出し、1つの架空世界として再構築する君の名は背景美術の卓越した技法によって生み出されています。
町自体の空気感や駅、図書館といった生活基盤の多くは岐阜県飛騨市(JR飛騨古川駅や飛騨市図書館、気多若宮神社など)をモデルに取材されています。その一方で、1200年前と作中の現代という2度にわたる糸守湖隕石の落下によって形成されたカルデラ地形のスペクタクルは、飛騨の山中には実在しない景観です。
さらに、三葉の家系である宮水神社の「御神体(隠世・カクリヨ)」が鎮座する外輪山に囲まれた巨大な窪地は、伊豆諸島南端に位置する絶海の孤島青ヶ島御神体の二重カルデラ火山(丸山)が視覚的モチーフとして強力に反映されていることが美術スタッフの証言等で知られています。つまり糸守という世界は、「飛騨の街並み」「信州の湖」「伊豆諸島の原始地形」という遠く離れた日本の実在地をパッチワークのように縫い合わせて作られた、奇跡的なハイブリッド空間なのです。