「処方箋がないのに病院と同じ薬を売るのは違法ではないのか」という疑念を抱く方は大勢います。しかし、零売(れいばい)は法律に違反する行為ではありません。医薬品医療機器等法(薬機法)の条文および厚生労働省の通知に基づき、正当に認められた販売形態です。
日本の医薬品は、ドラッグストア等で自由に買える「一般用医薬品(第1類〜第3類OTC)」、薬剤師の説明が必要な「要指導医薬品」、そして医師の診断を前提とした「医療用医薬品」の3つに大別されます。この医療用医薬品はさらに以下の2種類に分かれています。
1つ目が、医師の指示書である処方箋の交付が法律上義務付けられている「処方箋医薬品(抗生剤、高血圧治療薬、精神安定剤、抗がん剤など)」です。これらを処方箋なしで販売した場合は薬機法第31条違反となり、刑事罰の対象となります。
2つ目が、「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」です。医療用医薬品全体のうち約半分(約7,000品目)を占めるこの区分は、医師の診察に基づく投与が原則であるものの、法的には「処方箋の交付が必須」とは明記されていません。厚生労働省が過去に発出した通知(医薬発第101号など)においても、「やむを得ない事情がある場合」かつ「必要最小限の数量」に限り、薬局において薬剤師が適切な対面管理のもとで「医療用医薬品の分割販売」を行うことが明認されています。
かつて零売の運用を巡っては、業務改善指導を受けた薬局側が国を相手取って訴訟を提起するなど、行政解釈と現場運用の境界線が厳しく争われた経緯があります。2026年現在の規制環境においては、「医師への受診勧奨を大前提とし、薬剤師が患者の症状と服用歴を対面で精査した上で、緊急の必要性が認められる場合にのみ最低限の日数分を販売する」という厚生労働省の厳格な運用ガイドラインが定着しています。違法な裏ルートではなく、制度の隙間を埋めるための例外的な救済規定として機能しています。