出張先でのスーツシワ緊急対処法として、客室の限られた備品だけでどこまでシワを伸ばせるのかは切実な問題です。結論から言えば、一般的なウール主体のスーツであれば、適切な水分(湿度)と熱、そして自重によるテンションをコントロールすることで、アイロンなしでも日常的な着用ジワやパッキングによるたたみジワの大部分を目立たないレベルまでリセットできます。
大手アパレルメーカーの開発担当者は「羊毛(ウール)繊維は人間の毛髪と極めて似たケラチンタンパク質で構成されており、内部に水分を取り込むと分子同士をつなぐ『水素結合』が一時的に解除される特性を持ちます。この状態で生地自体の重みで下方向に引っ張られ、乾燥する過程で再び結合が固定されるため、シワが自然に消えていくのです」と解説します。
ただし、どんなシワでも消せるわけではありません。長時間の着座で深く圧着されたスラックスの股関節付近のシワや、化学繊維特有の熱可塑性によって形状記憶されてしまったシワは、蒸気を与えるだけでは平坦に戻りません。手元の道具とシワの深さを見極め、後述する複数のレスキュー策を段階的に適用する判断力が求められます。