短距離走の記録を巡って最も誤解を生んでいるのが、学校の体力テストで用いられる「ストップウォッチ手動計測」と、陸上競技大会で用いられる「全自動写真判定(電動計測)」の決定的なタイム差です。
学校の体力テストでは、体育教師や補助生徒がスタートの煙(または旗の動き)を見て指でボタンを押し、選手がゴールラインを越えた瞬間に再びボタンを押します。人間の脳が視覚情報を受け取って指の筋肉を動かすまでには、平均して約0.20〜0.25秒の生理学的反応遅延(リアクションタイム)が発生します。特にスタート時、計測者は合図を見てからボタンを押すため、時計のスタートは実際の選手の動きよりもコンマ2秒以上遅れて動き始めます。対してゴール時は、選手が向かってくる動きを視覚で先読みしてボタンを押すため、誤差はスタート時よりも小さくなります。
この結果、手動計測は電動計測よりも約0.24〜0.30秒ほどタイムが速く出るという揺るぎない計測誤差が生じます。日本陸上競技連盟の公式換算でも、100m走における手動計時記録は電動計時に対して一律「プラス0.24秒」として扱われます。つまり、学校のグラウンドで計測された「手動6.8秒」は、陸上公認の電気計測に換算すると「7.04〜7.10秒」に相当します。
ネット上の口コミや知恵袋などで「中学生のときに6秒2だった」と豪語する大人が多い背景には、ストップウォッチ計測特有のフライング気味の押しミスや、グラウンドの距離が正確に計測されていなかったというずさんな環境的要因が絡んでいます。自称のタイムに惑わされず、公的データに裏打ちされた正規の数値を基準に据える冷静な視点が欠かせません。