殺人事件などの凶悪犯罪を担当する警視庁刑事部捜査第一課。彼らが最も恐れるのは、他殺体が「病死」や「事故死」として処理され、捜査すら開始されずに闇に葬られることだ。
過去には、首を絞められた痕跡が死後変化によって不明瞭になり、単なる心不全として処理されかけた事件や、インスリンなどの薬物投与による毒殺が急性心不全と誤認されそうになった事例も存在する。捜査第一課のベテラン刑事は匿名を条件にこう語る。「遺体に刃物傷があれば誰でも事件だとわかる。だが、本当のプロの犯罪者は外傷を残さない。現場検証の段階で『事件性なし』と見立ててしまえば、司法解剖にすら回らない。それこそが最大の死角だ」
外表検査だけで死因を特定することの危険性は、法医学界でも長年指摘され続けてきた。しかし、膨大な数の遺体が連日運び込まれる大都市圏の警察組織において、すべての現場に十分な人員と時間を割くことは物理的な限界に達している。