千年の時を超えて語り継がれる『源氏物語』。作者である紫式部は、ヒロインたちの髪型を通じてその心情や立場を克明に描き分けた。なかでも象徴的なのが「紫の上」である。幼少期に肩のあたりで切り揃えられたその髪は、当時の貴族社会における少女の可憐さと純粋さを際立たせるものだった。
平安時代、女性の髪は長ければ長いほど美しいとされた。床に届くほどの黒髪がステータスだった時代において、あえて肩付近で短く切り揃える「尼削ぎ」は、少女時代の特権であり、あるいは世俗を断ち切る出家の決意を示す特別な儀礼だったのだ。
だが、その削ぎ落とされた毛先のラインには、単なる宗教的意味合いや年齢の証明を超えた美意識が宿っていた。自然になびく毛先と首筋のコントラスト。これこそが、現代の私たちが目にするボブスタイルの原型であり、千年前から完成されていた日本の造形美と言える。