日本推理小説界の巨星・横溝正史が遺したこの二大傑作は、物語の構造もテーマも全く異なるベクトルを持っている。1949年から連載された『八つ墓村』は、実際に起きた津山三十人殺傷事件に着想を得た怪奇色の強い作品だ。八人の落武者伝説と連続殺人事件が複雑に絡み合い、恐怖の中に秘められた宝探しやロマンスが描かれる。
対して1950年に発表された『犬神家の一族』は、信州の大製糸一族をめぐる血塗られた遺産相続争いを描いた超一級の本格ミステリである。緻密に張り巡らされた伏線、遺言状を巡るドロドロとした愛憎劇、そして顔を隠した男の正体を追うロジカルな謎解きが冴え渡る。テイストは異なれど、どちらも昭和の文学史に燦然と輝く名作だ。