なぜ映画『さらば、わが愛/覇王別姫』は、公開から長い年月を経た今なお伝説と称されるのでしょうか。その決定的な理由は、「芸術と現実の境界を完全に超越し、愛とアイデンティティを貫き通した衝撃的な結末」にあります。
文化大革命の嵐が去った11年後の1977年、誰もいない体育館の舞台で、蝶衣と小楼は再び『覇王別姫』を演じます。劇中歌の歌詞をきっかけに、小楼から「お前は男だ」と現実を突きつけられた瞬間、蝶衣は微笑みを浮かべ、小楼の腰から本物の宝剣を抜き取って自らの命を絶ちます。虞美人が覇王の前で自害したように、蝶衣もまた舞台の上で、小楼の虞美人として永遠の眠りについたのです。
裏切りと絶望に満ちた現実の世界を拒絶し、虚構の美の中に自らの真実を捧げた蝶衣の最期。それは単なる悲劇ではなく、時代や体制に人間性を奪われ続けた個人の、究極の尊厳の証明でもありました。レスリー・チャン自身のドラマティックな生涯とも重なり合うこの幕切れこそが、本作を唯一無二の神話へと押し上げた最大の要因です。