江戸時代に誕生した「ざるそば」には、当初海苔は乗っていませんでした。では、なぜ現代において「ざるそば=海苔付き」という図式が定着したのでしょうか。
その契機は明治時代(1880年代頃)に訪れました。各蕎麦屋が「ざる」と「もり」を併売するなかで、配膳ミスを防ぎ、客の目から見ても一目で高級版の「ざるそば」であると認識させるための視覚的マーキングとして、高級品であった浅草海苔を刻んで乗せる工夫が考案されたのがざるそばに海苔が乗る理由です。
しかし、戦後の高度経済成長期にファストフードチェーンや大衆食堂が普及する過程で、「みりんの効いた専用つゆを作る」という本来の仕込みの手間が省かれ、「同じつゆを使い、海苔を乗せたものだけをざるそばと呼ぶ」という簡略化が進行しました。現代の消費者が抱く誤解は、この大衆化の過程で生じた実務的な名残によるものです。