言葉としての定義は極めてネガティブでありながら、昭和から平成、令和に至る日本の大衆文化において、「ろくでなし」は独特のロマンや美学を伴って描かれてきました。
越路吹雪が歌い上げたシャンソンの名曲『ろくでなし』
日本の音楽史において、この言葉のイメージを決定づけた金字塔が、宝塚歌劇団出身の大スター・越路吹雪が歌った『ろくでなし』(1965年)です。
ベルギーのシンガーソングライターであるサルヴァトール・アダモの楽曲『Mauvais garçon(不良少年)』に、作詞家・岩谷時子が卓越した日本語詞をつけた本楽曲は、「ろくでなし ろくでなし だけど愛しているの」という情熱的なフレーズで社会現象となりました。社会規範から外れた不器用な男性に惹かれてしまう女性の切ない心情が見事に描写され、「ろくでなし=どこか色気と魅力のある愛すべき存在」という文化的フィルターが定着する契機となりました。
週刊少年ジャンプの金字塔『ろくでなしBLUES』
漫画の世界では、森田まさのり氏による大ヒット作『ろくでなしBLUES』(1988年〜1997年連載)が外せません。主人公の前田太尊をはじめとする登場人物たちは、世間から見れば喧嘩に明け暮れる「不良(ろくでなし)」ですが、仲間への義理や筋を通す熱い信念、不器用ながらも真っ直ぐな生き様を持っています。
この作品が提示したのは、「世間的な優等生=正しい人間」とは限らず、不完全で傷だらけであっても守るべき魂があるという男の美学でした。ここでも「ろくでなし」は、単なるクズとは異なる「人間臭い魅力」の象徴として昇華されています。