公式の勤務時間割には記載されない「見えない拘束時間」の存在も、看護師の疲労を極限まで押し上げる主要因です。
「前残業」と「後残業」による勤務時間の更なる延伸
夜勤入りが16:30からの場合でも、受け持つ患者全員のカルテ確認や点滴指示のチェックを行うため、15:30には病棟に入って情報収集を行う「前残業」が暗黙のルールとして強いられる病院が少なくありません。
さらに深刻なのが「後残業」です。朝9:00に夜勤が終了したとしても、重症患者の引き継ぎカンファレンス、日勤帯への申し送り、終わらなかった看護記録の入力や急変患者の処置報告書作成に追われます。ある総合病院に勤務する30代看護師の手記には、次のような生々しい告白が記されています。
「朝8時半を過ぎると急変が起きないよう祈るような気持ちになります。一度ステータスが急変すれば、医師への連絡、家族対応、処置の記録で、時計の針は平気で正午を回る。身体は重力に逆らえず、頭は白く霞み、16時間勤務のはずが気づけば19時間以上病棟に滞在していたことも一度や二度ではありません」
労働科学が警鐘を鳴らす「サーカディアンリズムの破壊」と感情労働
夜勤がつらいとされる根底には、精神論ではなく生物学的な限界が存在します。人間の体内時計(サーカディアンリズム)は夜間に深部体温と血圧を下げ、脳を休眠モードへと導くよう設計されています。その生理的欲求に逆らい、一瞬のミスも許されない注射や投薬確認、心電図モニターの監視を行い続けることは、極限の認知負荷を強いる作業です。
加えて、夜間に認知症患者の不穏や徘徊、暴言への対応に追われる「感情労働」の負荷が重層的にのしかかります。感情を抑制しながら安全を守り抜く重圧が、看護師の心身を蝕み、燃え尽き症候群(バーンアウト)や離職へと直結する構造的な病巣となっています。