事件現場において、結果として逃げ場を奪い惨劇を決定づけた最大の要因が、安藤望が外側からかけた野口邸の「ドアチェーン」でした。
安藤は事件の当日、希美が野口貴弘の推薦によって海外転勤(フォモサ・プロジェクト)に同行する計画があることを知ってしまいます。自分自身もそのプロジェクトを熱望していたこと、そして何より愛する希美が野口と海外へ行ってしまうことへの焦燥感と嫉妬心が、安藤の心を激しく揺さぶりました。
安藤は「希美が野口邸で将棋を指している間、少しだけ困らせてやろう」「密室にして二人の時間を邪魔してやろう」という、極めて他意のない、子供じみた悪戯心と独占欲から、部屋の外側の郵便受けスリットから針金を使ってドアチェーンをロックしてしまったのです。
しかし、その時室内では西崎と奈央子の脱出劇が修羅場を迎えていました。逃げ出そうとした西崎と奈央子、そして貴弘は、チェーンによって封鎖された玄関ドアの前で立ち往生し、逃げ場のない密室の中で暴力の衝突が激化。最終的な殺人へと直結してしまいました。
希美は現場に到着した際、落ちていた針金とチェーンの痕跡から、安藤がチェーンをかけた事実を直感的に悟ります。しかし希美は、安藤に真実を問い詰めることは一切しませんでした。
安藤は、過酷な過去を背負う希美や成瀬、西崎とは異なり、家庭環境にも恵まれ、将来を嘱望された「汚れなき光の世界の住人」でした。希美は、自分が愛した安藤に「自分がチェーンをかけたせいで人が死んだ」という一生消えない罪悪感を背負わせないため、その事実を墓場まで持っていくことを決意します。安藤の罪を隠し通すことこそが、希美が安藤に対して捧げた「究極の愛」でした。