「崩れた写真」や「CG映像」ではなく、生きているニュウドウカジカを自らの目で観察できる場所はあるのか。そのハードルは天文学的に高いのが実情です。
深海生物の生体飼育には、専用の高圧水槽、水温2〜3度を一定に保つ強力な冷却システム、そして水深数百メートルから個体を傷つけずに引き揚げる高度な減圧コントロール技術が不可欠です。少しでも水温が上がったり減圧速度を誤ったりすれば、水槽に届く前に命を落としてしまいます。
その極めて困難な壁を破り、日本国内のみならず世界的な快挙を成し遂げたのが、福島県いわき市にある水族館「アクアマリンふくしま(環境水族館アクアマリンふくしま)」です。
同館は北海道知床羅臼沖の水深数百メートルで刺し網にかかったニュウドウカジカ(Psychrolutes phrictus)の無傷搬送に成功し、長期にわたる生体展示を実現させました。展示水槽の中でゆったりとヒレを動かし、凛として海底に腰を据える生きた姿は、ネット上の「崩れた肉塊」という偏見を痛快に覆すものでした。
飼育を担当したスタッフの観察記録では、餌であるオキアミや小魚を吸い込むように捕食する姿や、大きな頭部をゆっくり傾けながら水流を捉える繊細なしぐさが報告されています。同館ではこの生態のギャップを逆手にとり、オリジナルの「ニュウドウカジカのぬいぐるみ」やマスコットグッズを開発。入館者がこぞって買い求める大人気商品となり、ミュージアムショップの看板アイテムへと押し上げられました。