現場目線に目を向けると、「三つ子の魂百まで」という言葉が最も暗い影を落としているのは、日々の育児に追われる親たちの精神状態です。SNSや育児相談掲示板では、次のような痛切な吐露が後を絶ちません。
「仕事復帰で1歳から保育園に預けたが、愛情不足で一生性格が歪んでしまわないか毎日泣きそうになる」
「癇癪がひどい我が子を見ていると、自分の育て方が悪くて3歳までに治せなかった一生の失敗作にしてしまったと自分を責めてしまう」
こうした深刻な罪悪感を煽る言説に対し、幼児期 性格形成の鍵を握る精神医学・発達心理学の枠組みである子育て 愛着形成 アタッチメントの視点から事実関係を検証する必要があります。
英国の精神分析家ジョン・ボウルビィが提唱した愛着理論(アタッチメント理論)において、乳幼児が特定の養育者との間で築く情緒的絆は、将来の対人関係の基本的信頼感(内的作業モデル)の基礎になります。泣いたときに抱きしめてもらえる、恐怖を感じたときに安全基地に戻れるという経験の積み重ねが、情動調律の回路を育てます。
しかし、愛着理論が強調しているのは「応答の質の安定性」であって、「24時間365日母親が密着していること」ではありません。複数の質の高い保育者や父親、祖父母に囲まれて育ってもアタッチメントは強固に形成されます。英国の児童精神科医ドナルド・ウィニコットがかつて「グッド・イナフ・マザー(ほどよい母親)」と呼んだように、親は全知全能の完璧な対応など目指す必要はなく、子どもの欲求の6〜7割程度に応答できていれば健全な愛着は十分に育つとされています。
さらに臨床心理学では、幼少期に不安定な愛着を経験したとしても、成人後に良質な友人、パートナー、セラピストとの安定した関係を経験することで、自己肯定感と他者信頼を後天的に獲得する「獲得された安定型(Earned Security)」という現象が広く確認されています。幼少期に受けた傷や環境の不備は、生涯消えない刻印などではありません。