情報空間における最大の盲点は、「テレビで紹介された店に行けば必ず手軽に絶品体験ができる」という安易な期待値設定にあります。マツコの番組発信力は凄まじく、放送から月日が経過した現在でも、週末になると「聖地巡礼」感覚の観光客が押し寄せます。
しかし、老舗鰻店はファストフードではありません。注文を受けてから蒸しと焼きの最終工程に入るため、席に着いてからの配膳まで20分から30分を要するのは伝統的な江戸前鰻屋の基本所作です。この「鰻屋の待ち時間」を風情として楽しむ余裕がないタイトなスケジュールの訪問者は、「待ち時間が長すぎる」と不満を募らせる結果になりがちです。
また、ネット上では「マツコが絶賛した限定裏メニューがあるのでは」といった憶測も一部で見られますが、軍次家をはじめとする松戸の名店が提供しているのは、奇をてらわない正統派のうな重、白焼き、肝焼きです。過度な創作性を期待するのではなく、実直に磨き抜かれた伝統の職人技を味わう姿勢こそが求められます。