相次ぐ事故を防ぐため、三徳山三佛寺では極めて厳格な入山管理体制が敷かれています。その象徴が、登山受付事務所で待ち受ける「登山靴・服装の目視検査(靴検査)」です。
参拝登山を希望する者は、受付で全員足元を提示しなければなりません。ここで寺院側の僧侶や係員によって「危険」と判断された靴は容赦なく門前払いを食らいます。不合格となる基準は明確です。
- ハイヒール、パンプス、サンダル、革靴(論外として即時不合格)
- 靴底の溝がすり減ったスニーカー、キャンバス地の平底シューズ
- 金具付きのスパイクシューズ(文化財の岩肌や木の根を傷つけるため禁止)
- ソールが硬すぎる本格的な重登山靴(岩の凹凸に柔軟に食い込まず、スリップを誘発するため不可とされる場合あり)
もし持参した靴が検査で不合格となった場合、参拝を断念するか、寺の売店で販売されている伝統の「わらじ(草鞋)」(1足約1,000円)を購入し、その場で履き替えるしか道はありません。「現代の高機能シューズがダメで、なぜ昔ながらのわらじなのか」と疑問を抱く参拝者も少なくありませんが、実際に履いて登った者の証言は驚きに満ちています。
天然の藁(わら)を編み込んだ草鞋は、足裏の感覚を研ぎ澄まし、凹凸のある岩肌や濡れた木の根に対して驚異的なグリップ力を発揮します。足の指全体を使って地面を掴む感覚が得られるため、現代の硬いラバーソールよりも安全に行場を踏破できる先人の叡智なのです。ただし、鼻緒で足の指の間が擦れて痛むリスクや、水分を吸うと重量が増すデメリットもあるため、本来は溝のしっかり残った柔軟性のあるトレッキングシューズを履いて臨むのがベストです。
さらに見落としてはならない重要な規制が、「一人登山(単独入山)の原則禁止」です。
かつて単独で入山した参拝者が滑落した際、発見が大幅に遅れて命を落とす事態が発生しました。険しい谷筋では携帯電話の電波が届かない不感地帯も多く、自力で救助要請が出せない単独行は致命的な結末を招きます。この教訓から、寺院では2名以上のパーティーでの入山を絶対条件と定めています。
では、一人旅の参拝者は登れないのでしょうか。現場では、一人で訪れた参拝者同士が受付前で声を掛け合い、その場で即席のペアを結成して入山届を提出する光景が日常的に見られます。参拝者同士で互いの安全を確認し合い、助け合いながら登る連帯感もまた、三徳山ならではの体験といえます。