児童支援の現場において極めて重要なのが、母子分離不安と発達障害(神経発達症群)、さらには愛着障害との見立ての区別です。原因の所在を取り違えると、親への接し方や学校側の配慮が完全に空回りすることになります。
第一に、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)との識別です。ASD児が登校を渋る主因は「人との分離」そのものではなく、「予定変更による見通しの崩れ」「特定の下駄箱の位置変更」「集団指示の聞き取りづらさ」といった感覚や認知的負荷にあります。親にしがみつくのは、親が外界の混乱から身を守る唯一の「物理的シェルター」として機能しているためであり、分離そのものが恐怖の本質ではないケースが目立ちます。
第二に、愛着障害と母子分離不安の違いです。愛着障害(反応性アタッチメント障害や脱抑制型対人交流障害など)は、乳幼児期における養育者との安定した愛着関係の形成不全が根底にあります。特定の大切な存在を安全基地として頼ることができず、見知らぬ大人に無差別に甘えたり、逆に強い不信と敵意を向けたりします。一方で母子分離不安は、親に対する強固な愛着が存在するからこそ、「その絆を失うこと」「離れた間に破滅が起きること」への強い恐怖が生じます。つまり、母子分離不安の背景には基本的信頼感の芽生えが存在しているという点が決定的な差異です。
鑑別を誤り、「発達障害だから過度な配慮を避けて慣れさせる」「愛着に問題があるから厳しく自立させる」といった誤った方針を取ると、子どもの精神状態を決定的に追い詰めることになります。