中村俊輔のキャリアを語る上で、誰もが真っ先に思い浮かべるのがスコットランドの名門セルティック時代、世界屈指のメガクラブであるマンチェスター・ユナイテッドを相手に叩き込んだ2本の直接FKです。2006-07シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ(CL)グループステージにおいて、オールド・トラッフォードでのアウェー戦、そしてセルティック・パークでのホーム戦の双方でネットを揺らしたシーンは、欧州サッカー史における屈指のハイライトとして語り継がれています。
当時マンチェスター・ユナイテッドのゴールマウスを守っていたのは、オランダ代表の伝説的守護神エドウィン・ファン・デル・サールでした。身長197cmの巨躯と卓越したポジショニングを誇り、あらゆるシュートに反応してきた世界最高峰のGKが、ホーム戦の30ヤード(約27m)の距離から放たれたFKに対して一歩も動けず、ただボールを見送ることしかできませんでした。
なぜ名手ファン・デル・サールですら反応すら許されなかったのか。当時の試合映像や現地メディアの分析によると、中村のシュートは「壁の最高到達点」をわずか数センチメートル上回る高さで通過した直後、急激なトップスピンとサイドスピンの複合回転によって急降下し、ゴール左上のデッドゾーン(いわゆるサイドネット上部)へ正確に突き刺さっていました。GKの視界からは壁の陰に隠れてボールの出所が一瞬遅れ、視認した瞬間にはすでに防ぎようのないコースへと到達していたのです。
後にファン・デル・サール自身もインタビュー等でその精度の高さに敬意を表しており、偶然の産物ではなく、狙い澄ました計算通りの軌道であったことが世界中に強烈な衝撃を与えました。