ファッション情報の発信が活発化するなかで、「型崩れを防ぐにはとにかく平干し・たたみ保管が絶対の正義である」という極論がしばしば拡散されています。しかし、この主張には現場視点での重大な盲点が潜んでいます。
まず混同されやすいのが、「洗濯乾燥時の平干し」と「日常のクローゼット保管」の違いです。洗濯直後のニットは自重の数倍もの水分を含んでおり、繊維が極限まで緩んでいます。この濡れた状態で吊るせば自重で無残に伸びるため、平干しネットによる水平乾燥が絶対条件となります。しかし、完全に乾いて水分が抜けた日常状態であれば、適正な方法を取る限り吊るして保管しても繊維構造が破壊されることはありません。
むしろ、何枚ものセーターを衣装ケースに無理やり重ねて詰め込む「たたみ保管」のほうが、下層のニットに数キロ単位の圧力をかけ続けることになります。その結果、起毛感や編み目のふっくらした空気層(ロフト感)が押しつぶされ、毛玉の原因になったり風合いが損なわれたりする実害が生じます。さらに、引き出しの中は湿気がこもりやすく、ウールを好むカツオブシムシなどの害虫被害に遭うリスクも跳ね上がります。つまり、「重いざっくり編みは丁寧にたたんで平置き」「日常使いのハイゲージやカーディガンは脇通しで吊るし保管」というハイブリッド運用こそが、衣類の寿命を最大化させる賢いアプローチなのです。