安孫子氏が世に残したヒット作は、一度見たら脳裏から離れない強烈なフックを持っています。
『忍者ハットリくん』や『怪物くん』は、子ども向けの明快なコメディでありながら、異形の存在が日常に溶け込むシュールさと、どこか哀愁漂うペーソスが同居しています。また、『プロゴルファー猿』では、変則的なゴルフクラブ一本で超人たちと戦うという斬新な少年スポーツ漫画のフォーマットを確立させました。
そして、安孫子ワールドの神髄と言えるのが『魔太郎がくる!!』と『笑ゥせぇるすまん』です。
いじめられっ子の少年が「こ・の・う・ら・み・は・ら・さ・で・お・く・べ・き・か」の決め台詞とともにオカルト復讐を遂げる『魔太郎がくる!!』は、読者の心に潜む暗い願望を容赦なく描き出し、後のサスペンス・ホラー漫画に多大な影響を与えました。
さらに、1989年からTBS系のバラエティ番組内でアニメ化され社会現象となった『笑ゥせぇるすまん』の喪黒福造は、現代社会の寓話として今なお色褪せません。喪黒福造は悪魔のように人を陥れるのではなく、ただ依頼人の「心の隙間」を埋める約束をするだけです。しかし、人間は自らの弱さや承認欲求、虚栄心から約束を破り、破滅の「ドーン!」を食らうことになります。現代のSNS中毒や過剰消費社会の歪みを見事に先取りしていた点に、安孫子氏の卓越した洞察力が光ります。