伝統的な歌舞伎の様式美に、スピード感溢れる展開や台詞回し、圧倒的な照明・音響効果を取り入れた「スーパー歌舞伎」は、まさに日本の演劇史における巨大なパラダイムシフトだった。重厚な義太夫や古典の枠組みを大切にしながらも、セリフには現代の言葉遣いを大胆に採用。ストレートプレイや現代劇の第一線で活躍するクリエイターを次々と起用した発想の転換は、当時の伝統派から強い反発を受けた。
しかし、舞台裏で繰り広げられていたのは、徹底的なロジックと計算に裏打ちされた葛藤の連続だった。関係者の証言によれば、稽古場での市川猿翁はミリ単位の照明の角度や、フライング(宙乗り)のスピード調整にいたるまで自ら指示を出して一切の妥協を許さなかったという。古典演目の持つ人間ドラマの本質を抽出した上で、それを現代の観客に最も効果的に伝えるための表現技法をゼロから再構築する作業は、想像を絶する負荷を伴うものだった。
未公開の記録映像や当時のスタッフが語るエピソードからは、客席の反応を逐一分析し、毎公演ごとに演出を微修正していた真実が浮かび上がる。伝統の継承とは単に過去の型をなぞることではなく、時代の熱量と同調し続ける挑戦そのものであるという哲学が、スーパー歌舞伎のすべての舞台裏に貫かれていた。