立教大学在学中に映画『連合艦隊』でデビューを果たし、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した中井貴一。しかし、どこへ行っても付いて回るのは「佐田啓二の息子」という肩書だった。周囲の過剰な期待と比較の目は、若き日の彼を大いに苦しめた。「自分は父の七光りで評価されているのではないか」という葛藤は、苛烈なまでに彼を追いつめた。
その転機となったのが、脚本家・山田太一が手掛けた金曜ドラマ『ふぞろいの林檎たち』である。不器用で、冴えなく、学歴や容姿にコンプレックスを抱く青年・仲手川良雄役を等身大で熱演。従来の二枚目スターのイメージを脱ぎ捨て、泥臭い人間臭さを表現したことで、彼はついに「佐田啓二の息子」ではなく「役者・中井貴一」として日本中の視聴者に強い印象を焼き付けた。