和彫りには、長い歴史の中で暗黙の了解として受け継がれてきた「組み合わせてはならない図柄」が存在します。この和彫りタブーな組み合わせの理由を単なるオカルトや呪術的な祟りとして片付けるのは早計です。その本質は、室町・江戸期から続く日本美術における季節感(花鳥風月)の整合性にあります。
代表的なタブーの例として知られるのが「春の花と秋の草木の混在」です。たとえば、桜(春の象徴)と紅葉(秋の象徴)を同一の背景や見切りの中に無秩序に散らす構図は、伝統工芸の世界で厳しく戒められてきました。「雲井桜」と「紅葉狩り」のように、四季の移ろいを一枚の絵の中に破綻なく物語として構成する場合を除き、無作為に混ぜ合わせることは「季節の風情を弁えない無粋な行為」とみなされるためです。
また、生態系や物語の矛盾も忌避されます。水棲の霊獣である「鯉」や「金霊(きんりょう)」の周囲に、陸上の猛獣である「虎」を脈絡なく配置したり、海中の波頭に山の植物を直接咲かせたりする構図は、空間のリアリティを損ないます。さらに仏教上の尊格(不動明王や観音菩薩など)を下半身や踏みつけられる位置に配置することは、信仰心に対する不敬とされ、伝統的な彫師であれば絶対に筆を執りません。和彫りのタブーとは、迷信への恐れではなく、日本画の文脈を重んじる職人たちの美学と理性の結晶なのです。