腹起しの施工手順を正確に理解することは、施工管理者にとって安全確保と工程管理の両面から不可欠だ。以下に標準的な施工フローを解説する。
ステップ1:山留め壁の構築
腹起し設置に先立ち、まず山留め壁を構築する。都市部の建築工事では鋼矢板(U形・Z形)や親杭横矢板(H鋼親杭+木製または鋼製横矢板)が主流だ。構造物が密集する市街地では柱列式地中連続壁(SMW工法・RC連続壁)も多用される。山留め壁の剛性と施工精度が、その後の腹起し設置の難易度を大きく左右する。
ステップ2:第一段掘削と腹起し1段目の設置
山留め壁が完成したら根切り(掘削)を開始する。第一段掘削は腹起し1段目の設置レベルより約50cm深くまで行い、腹起し設置のための作業空間を確保する。掘削完了後、クレーンで搬入したH形鋼腹起しを山留め壁の内面に沿って設置し、取付けボルトまたは溶接によって固定する。腹起しと山留め壁の間には空隙が生じやすいため、裏込めフォームやパッキン材を用いて密着させることが重要だ。不完全な密着は荷重の偏心を引き起こし、局所破壊の原因となる。
ステップ3:切梁の設置とプレロード(初期プレストレス)導入
腹起し設置完了後、腹起しを支点として切梁を組み込む。切梁の端部にはジャッキ(油圧ジャッキまたはターンバックル)を設け、設計値に基づいた初期プレロード(設計軸力の50~80%程度)を導入する。このプレロードは山留め壁の変形を事前に抑制する効果があり、特に軟弱地盤での施工では欠かせない操作だ。施工管理者はプレロード値を管理記録票に記録し、施工管理記録として保管する義務がある。
ステップ4:多段設置(掘削深さに応じた腹起しの増設)
掘削が深くなるにつれて腹起しと切梁を多段に設置していく。柴田工業の技術資料が指摘するように、多段設置においては「各段の腹起しが独立した荷重伝達経路を形成する」ため、下段の腹起し設置は上段の切梁が完全に定着してから行うことが鉄則だ。現場では多段設置のタイミングを掘削進捗と連動したバーチャート工程表で管理するケースが増えている。
ステップ5:継手の施工と品質管理
腹起し用H形鋼は流通材の標準長さ(通常6m、9m、12m)に制約されるため、長い掘削面では継手(つぎて)が必要となる。継手には以下の点を厳守する必要がある。
- 継手位置は切梁接続部(最大せん断力発生点)を避け、スパンの四分点付近(支持点から1/4Lの位置)に設けることが原則
- 継手はボルト接合(高力ボルト摩擦接合)を標準とし、溶接継手の場合は超音波探傷試験(UT)による品質確認を実施
- 継手部の断面性能が母材と同等以上であることを設計計算書で証明する
ステップ6:躯体構築後の腹起し撤去(盛替え含む)
地下躯体が完成したら、腹起しを段階的に撤去する。土木用語集(doboku.ezwords.net)の記述にあるように、「仮締切の場合、最終掘削時からフーチング打設を行い、腹起しや火打ちなど躯体の邪魔になるので、適切な盛替えが必要となる」。盛替えとは既存の腹起しを一時的に移設または切り替えながら躯体工事を進める手法であり、計画なしに撤去すると山留め壁の安定性が一時的に失われるリスクがある。