「退職金はいつもらえる?」と不安を抱える方が真っ先に理解しておくべき事実は、退職金の支払いタイミングには全国一律の法律上の決まりが存在しないという点です。システム投資labや日研トータルソーシング「e仕事」などの実務調査データが示す通り、そもそも退職金制度そのものが国の法律で設置を義務付けられたものではありません。厚生労働省が公表している「令和5年就労条件総合調査」の統計データによると、退職金制度(一時金または年金)を導入している企業の割合は全体の74.9%にとどまっており、残りの約4社に1社(25.1%)には退職金制度自体が存在しないのが実情です。
制度を設けている約75%の企業において、退職金支給日の目安として最も多いのは「退職日の翌月末から2か月以内」です。なぜ最終出社日や退職当日にすぐ振り込まれないのかといえば、そこには企業側の経理処理だけでなく、「どこから資金が拠出されるか」という制度設計上の決定的な違いが存在するからです。具体的には、企業の内部留保から直接支払う「社内積立(退職一時金)方式」なのか、それとも外部の金融機関や共済機関を経由する「外部積立(企業年金・共済)方式」なのかによって、手続きのリードタイムが劇的に変化します。
また、民間企業と公務員でもルールは明確に分かれています。公務員の退職手当支給時期については、国家公務員退職手当法や各自治体の条例によって厳格に規定されており、原則として「退職した日から起算して1か月以内」に支払われる仕組みになっています。ただし、退職時に刑事事件に関与していたり、懲戒処分相当の調査が行われていたりする特殊なケースでは支給が一時差し止められる例外規定も存在します。
表からも明らかなように、特に注意が必要なのが中小企業退職金共済の振込時期です。独立行政法人勤労者退職金共済機構(中退共)を利用している企業では、会社が直接従業員の口座へ振り込むのではなく、退職後に会社から「被共済者退職届」が機構へ提出され、同時に退職者本人が「退職金請求書」を郵送することで初めて審査がスタートします。つまり、退職した会社の総務担当者が中退共への通知手続きを1か月放置していれば、その分だけ振込時期も自動的に1か月後ろ倒しになる構造になっているのです。