「岐阜=猛暑」という強烈なパブリックイメージと、実際の豊かな冷涼環境。このギャップを生み出している最大の要因は、岐阜県特有の極端な地形構造にあります。
気象庁および国土地理院の調査データが示す通り、岐阜県は南部の海抜ゼロメートル地帯に近い濃尾平野から、北部の飛騨山脈(北アルプス・乗鞍岳など標高3,000m級)に至るまで、高低差3,000m超という日本屈指の垂直地形を有しています。一般的に気象学上の「気温減率」では、標高が100メートル上昇するごとに気温は約0.6度低下します。つまり、標高900メートルのひるがの高原では平野部より約5.4度、標高2,702メートルの乗鞍岳畳平では約16度以上も気温が下がる計算です。
しかし、地元民が「市街地より5度以上涼しい」と口を揃える穴場には、標高差だけではない3つの気象・地理的メカニズムが複合的に作用しています。
第一に、原生林と清流による「天然の気化熱冷却」です。美濃加茂や関などの平野部から中津川の山間部、とりわけ裏木曽に位置する付知峡などの深いV字谷に入ると、木曽川水系の冷たい雪解け水や伏流水が霧状となって空気中を漂い、木々の蒸散作用と合わさって強力な冷却効果を生み出します。日差しを完全に遮る深い樹冠(林冠)の下では、直射日光による地表加熱が起きません。
第二に、夜間から早朝にかけて冷たい空気が山肌を滑り降りて盆地や谷底に滞留する「冷気プール現象」です。飛騨高山の郊外やせせらぎ街道沿いの谷あいでは、日中に平野部で40度近い猛暑日を記録した日であっても、夕方以降は気温が20度前後まで急落し、熱帯夜とは無縁の冷気に包まれます。
第三に、石灰岩地帯特有の「地下恒温性」です。郡上市八幡町周辺に点在する大滝鍾乳洞などは、年間を通じて洞内温度が15〜16度で完全に固定されています。真夏の猛暑日には外気温との差が実に20度以上に達し、一歩足を踏み入れるだけで冷房機器では再現不可能な天然の冷気ショックを体感できます。