眼窩底骨折と診断されたすべての患者が即座に手術を受けるわけではありません。医学的エビデンスに基づく手術適応の判断基準は、主に以下の3点に集約されます。
1. 眼球運動障害と複視の残存:牽引試験(ピンセット等で筋肉を動かす検査)やヘス赤緑試験で明らかな筋の挟み込みが証明され、正面視や下方視(手元や足元を見る視線)で物が二重に見えて日常生活に著しい支障がある場合。
2. CT画像上での広範な骨欠損と脱落:骨折範囲が広く、将来的に2ミリ以上の眼球陥凹が出現することが確実視される場合。
3. 小児のトラップドア型骨折:筋肉が挟まり血流障害と自律神経症状(嘔吐・徐脈)を呈している場合(原則として超緊急手術)。
小児の緊急例を除き、成人の場合は受傷後すぐに手術を行うよりも、消炎鎮痛剤やステロイドの内服でまぶたの急性浮腫を引かせ、受傷後7日〜14日前後に手術を行うのが標準的です。受傷から2週間を超えると、折れた骨の周囲に硬い線維性組織や瘢痕が形成され、筋肉の授動(引き剥がし)が著しく困難になるため、この2週間が事実上のリミットと位置づけられています。
手術の手法は年々進化を遂げています。2026年現在の臨床現場では、下まぶたの内側(結膜側)を切開して傷跡を外から見えなくするアプローチに加え、ハイビジョン内視鏡を用いた術野の拡大視が標準化しています。落ち込んだ筋肉や脂肪を愛護的に眼窩内へ引き上げ、骨が欠損した部位には体内へ自然に吸収される生体吸収性シート(PLLA/PCL製プレートなど)や、形状保持力に優れた極薄チタンメッシュ、あるいは患者固有のCTデータから出力された3Dプリンティングカスタムインプラントを留置して底面を再建します。
入院期間と全治までの経緯について、一般的なスケジュールは全身麻酔下での手術を伴う場合、入院期間は3泊4日〜5日間程度です。術後翌日から歩行可能となりますが、手術直後は患部の腫れや再度の複視が出現するため安静を保ちます。退院後はデスクワークであれば術後1週間程度で復帰可能ですが、激しい運動や重労働は術後1カ月間制限されます。神経や筋肉の微細な回復を含めた完全な全治まではおよそ3カ月〜6カ月のタイムラグを要します。