名曲「アイネクライネ」を深く理解する上で欠かせないのが、リリース当時の米津玄師が置かれていた劇的な環境変化です。本楽曲は、2014年4月23日に発売された米津玄師の2ndアルバム『YANKEE』の収録曲(4曲目)として世に放たれました。前作『diorama』の完全個人制作スタイルから一転し、外部プロデューサーやバンドメンバーを招き入れ、外の世界へと自らを激しく開き始めた極めて重要な転換点の作品です。
さらに本作は、女優の堀北真希が出演した東京メトロの2014年度広告キャンペーン「Color your days.」のCMソングとして書き下ろされました。米津玄師にとって「キャリア初となる大型タイアップ曲」という重大な使命を背負った楽曲だったのです。当時の音楽雑誌『ROCKIN'ON JAPAN』や音楽ナタリーのインタビューにおいて、米津は当時の心境を次のように生々しく述懐しています。
「自分はこれまで、箱庭のような自分の内側の世界だけで音楽を作ってきた。けれど、もっと普遍的で、街の中で鳴り響き、見ず知らずの誰かの日常に溶け込むようなポップソングを作りたいと思った。CMソングという『誰かのための音楽』の依頼が来たとき、逃げずにそのど真ん中に飛び込もうと覚悟を決めた」
閉ざされた自意識の殻を破り、「開かれたポップス」として他者へ手を伸ばした瞬間だったからこそ、本作には他者と繋がることの歓喜と、それに伴う底知れぬ恐怖という米津玄師の生身の葛藤が生々しく刻み込まれることになったのです。