物語は、北海道の深い山中に放置された一台の軽ワゴン車の中から、身元不明の中年男性(作中では「お父さん」と呼ばれる)と一頭の犬の白骨化死体が発見される衝撃的な現場から幕を開けます。警察の司法解剖によって判明した事実は、お父さんの死亡推定時期から約1年遅れて犬が息を引き取ったという痛切なタイムラグでした。
なぜ二人は人里離れた北の大地で最期を迎えなければならなかったのか。時計の針を巻き戻す形で、ハッピーの視点から旅の全貌が語られます。東京の典型的な中流家庭で飼われていたハッピー(白い雑種犬、秋田犬や柴犬の血を引く風貌)は、お父さんの散歩仲間として平穏な日々を過ごしていました。しかし、バブル崩壊後の不況の中で会社をリストラされ、長年患った持病の悪化、さらには妻からの離婚通告によって家庭は崩壊。わずかな退職金とオンボロ車、そして愛犬ハッピーだけが手元に残されたのです。
行き場を失ったお父さんは、自らの生まれ故郷である北海道を目指し、愛犬とともにあてのないロードムービーのような旅に出ます。道中、車上生活を続けながらわずかな資金を切り詰める二人ですが、途中で出会った身寄りのない少年に同情した隙に財布を盗まれるなど、残酷な現実がお父さんを追い詰めていきます。病状が悪化し、薬も買えず、所持金が底をつく中で辿り着いたのが、北海道名寄市の美しい自然が広がるキャンプ場跡地でした。
車が完全にエンストし、身動きが取れなくなった車内で、お父さんはハッピーの頭を撫でながら静かに息を引き取ります。主人の死を完全に理解できないハッピーは、冷たくなったお父さんのそばを片時も離れず、近隣のゴミ捨て場や自然の中で残飯を漁りながら、およそ半年から9ヶ月以上もの過酷な冬を生き延びました。そして雪が降り積もる極寒の車内、ハッピーもお父さんの冷たい足元に寄り添うようにして静かに命を閉じたのです。この凄絶でありながらあまりに純粋な結末こそが、読者の涙腺を激しく崩壊させる核心となっています。