「老健に入れば理学療法士が毎日ついて、以前のように歩けるようになる」――この期待もまた、現場と家族の間に横たわる危険な誤解の一つです。
老健で提供されるリハビリテーションは、入所直後の3ヶ月間に行われる「短期集中リハビリ」であっても、原則1回20分〜30分程度、週3〜5日にとどまるのが標準的です。残りの時間はフロアでの集団レクリエーションや居室での自室待機となり、回復期リハビリテーション病院のような「1日2〜3時間のマンツーマン訓練」を想像していると、大きなギャップに直面します。
さらに見落とされがちなのが、老健のリハビリが目指すのは「完治」ではなく「現状の身体機能で自宅生活を成立させるための適応訓練」である点です。ポータブルトイレへの移乗や手すりを使った歩行など、最低限のADL(日常生活動作)維持が目標となります。
それにもかかわらず、施設側からはケアマネジャーや相談員を通じて「そろそろ段差解消の住宅改修を」「デイサービスの手配を進めてください」と、在宅復帰に向けた強いプレッシャーが家族にかかります。このプレッシャーに耐えかね、リハビリの成果が十分でないまま無理に在宅へ引き取った結果、家族が数週間で力尽き、救急搬送や虐待リスクへ直結する事例は後を絶ちません。「リハビリの場」という言葉の響きだけで老健を選ぶことには、極めて高いリスクが潜んでいます。