土俵を去る力士にとって、最後の儀式となるのが「断髪式」だ。大銀杏にハサミが入れられる瞬間、土俵上には静寂と深いエモーショナルな空気が立ち込める。一筋の髪の毛を切るごとに、過酷な稽古の日々や土俵での歓喜、苦悩が鮮前と蘇る。
大相撲界を長年牽引し、横綱として一時代を築いた照ノ富士春雄もまた、髷に対する並々ならぬ敬意を口にしてきた。現役を退き髷にハサミを入れる瞬間は、力士としての魂に区切りをつけ、第二の人生へと踏み出す境界線。断髪式に立ち会う観客が涙を拭うのは、髪の毛一本一本に刻まれた肉体と精神のドラマを感じ取るからにほかならない。