酒類や体質診断にまつわる言説には、科学的知見からかけ離れた誤解が依然として根強く残っています。特に検索ボリュームの多いトピックに関して、現場の取材で見えてきた盲点を是正しておく必要があります。
最大の誤謬は「お酒は毎日飲んでいれば肝臓が鍛えられて強くなる」という都市伝説です。日常的な飲酒によって多少の酒量に耐えられるようになる現象は存在しますが、これはアルコール脱水素酵素が増えたのではなく、肝臓の小胞体にある「MEOS(ミクロソームエタノール酸化系)」という予備の代謝経路が誘導されたに過ぎません。この代謝系が働くと活性酸素が大量に発生し、肝細胞の破壊や脂肪肝、肝硬変を急速に進行させる引き金となります。先天的な酵素活性値そのものが後天的に変化することは医学上あり得ません。
また、スマートフォンの画面上で数問の質問に答えるだけの「お酒タイプ診断無料アプリ」を過信しすぎることも危険です。心理テストベースの簡易診断は対話のきっかけや自己洞察には極めて有用ですが、身体の安全を保証する生化学的診断ではありません。自身のアルコール耐性を厳密に知りたい場合は、口腔粘膜や唾液を検体とする正式なALDH2遺伝子検査、あるいは皮膚にアルコールを含ませたガーゼを貼るパッチテストを実施することが客観的な事実を知る唯一の手段です。