ネット上の掲示板やSNSで定期的に浮上するのが、「最近のドラマは昔(90年代〜2000年代)に比べて面白くなくなった」という言説です。しかし、この言説にはメディア環境の変化に伴う重大な認知の歪みが存在します。
第1の盲点は、「タイパ志向(倍速視聴・スキップ視聴)による感情移入の阻害」です。現代の視聴環境では、1.5倍速や10秒スキップを使ってドラマを「情報」として消費するスタイルが普及しました。しかし、優れた演出家が意図して配置した「沈黙」「視線の泳ぎ」「背景の空気感」といった非言語の表現を切り捨ててしまうと、物語は単なるあらすじの連続に成り下がります。結果として、キャラクターへの深い感情移入が得られず、「薄っぺらい作品だった」と誤認してしまうケースが後を絶ちません。
第2の盲点は、「最終回ネタバレの先回りによるカタルシスの喪失」です。SNSのアルゴリズムによって、未視聴のうちに衝撃の結末や黒幕の正体、最近のドラマの最終回ネタバレ情報がタイムラインに流れてくるリスクが格段に高まっています。物語の積み上げを経ずに結論だけを知ってしまうことは、ドラマ鑑賞における最大の醍醐味である「サスペンス(宙づり状態の緊張感)」を自ら放棄することに他なりません。
かつての名作が輝いて見えるのは、記憶の中で美化されたハイライトシーンの印象が強いためであり、現代のドラマも適切な視聴環境とリテラシーを持って鑑賞すれば、過去作を凌駕する深みと映像美を備えた作品が数多く存在します。