この歴史的事件を、生活者の視点から鮮烈に描き直したのが本木克英監督の手による映画『大コメ騒動』だ。主演の井上真央は、60キロもの米俵を浜へと運ぶ過酷な労働に耐えながら、理不尽な市場原理に立ち向かう名もなき母親・いとを泥臭く、力強く演じきった。
従来の時代劇映画が描いてきた英雄譚や権力闘争とは一線を画し、本作は徹底して「生きるための糧」を求める庶民の目線にカメラを据えている。単なる娯楽作にとどまらず、緻密な時代考証に基づいた演出は歴史ドキュメンタリーさながらの迫力を持ち、日本映画産業における社会派エンターテインメントの新たな地平を切り拓いた。スクリーンに映し出される女性たちの叫びは、100年前の異世界の話ではなく、物価高に直面する現代の私たちの心境と恐ろしいほどに重なり合う。