本堂の畳に横たわり、天井を見上げる。そこには息をのむような壮大な世界が広がっていた。天才絵師・葛飾北斎がその89年の生涯の極限において挑んだ天井絵「八方睨み鳳凰図」だ。畳21枚分にも及ぶ巨細な画面いっぱいに羽ばたく鳳凰は、中国産の高級顔料や金箔が贅沢に使用され、描かれてから180年以上が経過した現在もなお衰えない圧倒的な彩色を放っている。
美術史の研究者の間でも、この大作がなぜ信州の小さな寺院に遺されたのか、今なお議論が絶えない。北斎は晩年、江戸から遥々小布施を4度も訪れた。老いに抗い、描くことへの途方もない執念を燃やし続けた肉筆画の最高峰であり、どこから見上げても鳳凰の鋭い眼光と対峙する計算し尽くされた構図は、観る者を圧倒する。