読者の多くが『ジョジョの奇妙な冒険』の名シーンを思い浮かべるとき、キャラクターの周囲に立ち上る「ゴゴゴ…」という文字がセットで記憶されているはずです。この擬音の最大の特徴は、「実際に耳で聞こえる物理的な音ではない」という点にあります。
荒木飛呂彦先生が自著や数々のインタビューで明かしている通り、「ゴゴゴ」が表現しているのは「不気味な気配」「迫り来る脅威」「登場人物が放つ精神的な威圧感」そのものです。第1部でディオ・ブランドーが不穏な企みを秘めて現れる場面や、第3部で宿敵DIOの館に足を踏み入れた瞬間の張り詰めた空気など、目に見えない心理的重圧を読者に体感させる装置として機能しています。
従来の少年漫画において、オノマトペは「爆発音(ドカーン)」や「打撃音(バシッ)」など、物理現象を耳に届けるための補足情報として使われることが大半でした。しかしジョジョにおける独特な表現の理由は、「読者の肌に直接伝わる空気の温度や湿度、恐怖心」を1コマの中に定着させるためにあります。静まり返った室内であっても「ゴゴゴ」と描き文字が添えられるだけで、読者は「何かが潜んでいる」「息が詰まるような殺気がある」と本能的に察知します。この心理的シンクロこそが、読者を一瞬で作品世界へと引き込む最大の引力です。