映画の幕が開くと、霧煙る太古の森の情景とともに静かにテキストが浮かび上がります。多くのファンが「冒頭の語り・ナレーション」として記憶しているこの部分は、実際には声優による音声ナレーションではなく、画面に表示される以下のプロローグ文章です。
【もののけ姫 冒頭プロローグ全文】「むかし この国は 深い森におおわれ そこには太古からの神々がすんでいた……」
このわずか一行半のテキストに続き、場面は東北の山奥に隠れ住む「エミシの村」へと移ります。櫓(やぐら)の上で見張りをする村人たちの緊迫した会話によって、物語は一気に動き出します。
【エミシの村 冒頭セリフの流れ】 物見:「なにか来る……森の様子がおかしい」
カヤ:「おじじ様、ヤックルが怯えています!」
アシタカ:「ただ事ではない……皆を村へ戻せ!」
静寂を破って現れるのが、異様な黒い触手に覆われた巨大な怪物「タタリ神」です。この怪物の正体は、西の国の森に君臨していた猪神「ナゴの守(かみ)」でした。ナゴの守がなぜ遠く離れた東国のエミシの村までやってきたのか。その動機には、人間の文明拡大による暴力の連鎖が刻まれています。
タタリ神襲来の背景にあるのは、タタラ場を率いるエボシ御前たちが放った石火矢(銃弾)です。体を砕かれる激痛と、森を切り拓く人間への凄まじい怨嗟によって、神たる猪は理性を失い、悪霊のごときタタリ神へと変貌しました。逃げ惑い、苦しみ狂った果てに辿り着いたのが、奇しくも大和朝廷の支配を逃れてひっそり暮らしていたエミシの隠れ里だったのです。
村の少女たちを救うため、アシタカはやむなく弓を放ちタタリ神を討ち取ります。しかし、絶命の間際に放たれた呪詛の触手によって、アシタカの右腕には黒く焼け付くような「死の呪い(痣)」が刻まれることとなりました。正義のために戦いながら、破滅の呪いを受け止めざるを得なかったアシタカの不条理な宿命が、このオープニング数分間に凝縮されています。